独立します...しました....音信不通..
Mさんはカテゴリーでいうと職人さんの属性でしょうか。もう少し絞るとインフラ系(電気・ガス・水道)の仕事です。私の業務の範疇にかすかに触れるので詳しくは言及しません。彼は30台半ば親方の元で働いて十数年。腕も上げ、親方からの信頼され、弟分からも慕われていました。
2年程前(と聞いています)突然、親方から独立をもちかけられました。『オマエならできるよ、応援するよ』
おぼろげながら業界の内部のこともわかりかけてきた頃です。
“独りでやればもっと儲かる...。 ”当初は、独立なんて..とても、と考えていたMさんも頭のなかで皮算用を始めるようになりました。
“独りでやれば、もっと稼げる” タイミング的にも2人目の子供が奥さんのお腹に宿った頃でした。
“ウチの仕事の一部をオマエに廻すから、困るようなことはナイ”これが親方の決め台詞だったようです。
親方に口を聞いて貰い出入りの業者から必要な道具類も安価に購入できました。当初は親方からも仕事が廻ってきていたようです。不慣れですが自らも営業に出たり努力を怠らず、独立当初はうまく廻っていました。
しかし、そうカンタンに事が運ばないのが世の中です。独り立ちしてから1年近く経った頃から、仕事が取れなくなってきました。同時に材料費の支払いに追われるようになりました。出ていくおカネと入ってくるおカネには、どうしてもタイムラグが生じます。
即親方に仕事を廻してくれるように掛け合いましたが、“ウチも厳しくなってきたからなあ....”のひと言、親方はほとんどMさんと目を合わせることもなかったそうです。
銀行の口座の残高は転がるように減っていきます。それに反比例するかのように、生まれたばかりの2人目子供さんにもお金がかかってきます。通帳を見るのもツライ日々が続きます。
ここで無理な借金をしなかったことが、せめてもの救いでした。Mさんのご両親の説得もあり実家からいくらか援助して貰い、支払いをすべて終えキレイなままで事務所を
閉めてしまいました。
それからどうされたのか、まったく情報が入ってこなくなりました。私もそう廻りのヒトに聞き廻ることもできずそのまま日常に埋没していきました。
Mさんの近況がヒトづてに伝わってきたのは、先月の始め頃でした。とりあえずMさんの実家に居を移し、まったく異なる業界で新入社員として最初からやり直しているようです。
まだまだ30代なので、いくらでもやり直しが効きます。ご両親との同居なら経済的負担の軽減されるでしょう。今回のことをいい糧として愛する家族のためにも、奮闘して欲しいものです。
少し離れた地点から、今回残念ながらうまくいかなかった要因を私なりにまとめてみました。
①親方から独立を薦められるに当たっての裏メッセージを洞察できていたか。
親方を信じる、信じないとは違う次元での‘推察’です、独立=ひょっとして聞こえのいい人員整理ではないか、という読みです。
②①と大いに関連します、常日頃から自社のお金と仕事の廻り具合に気にかけていたか。親方に嗜好の変化はなかったかというも合わせて気にかけていたかです、ギャンブ ル、女性関係、クルーザーを購入した等、身の丈以上の道楽に入れ込んでいなかったかという人間観察です。
③肝心のMさん自身のことですが、リスクを負うだけの事前の準備(自分のスキルの確認、人脈、運転資金等)は十分だったのか、いきなりの独立ということではなく社内起業的みたいな方法は検討しなかったのか。これはいわゆる会社の“かんばん、のれん”を借りる方法です。
④独立した際、慣れない営業にも精を出したとのことでしたが、親方の顧客に営業に出向いたりしていなかったか。営業をかける先を事前に相談したのか、どうか。
業界には独特の縄張りがあります。いわゆるシャバです。挨拶に出向く際は、できるだけ紹介していただく、そして双方にそれなりのお礼をする。
そういう“習わし”を理解していたのか。
⑤③の( )内のスキルですが、仕事のスキルは云うに及ばず最低限の会計の知識です。それと最重要ポイントであるお金のこと。運転資金以外に、収入がゼロでも最低1年間は家族が食べていけるお金を用意できたのか、最低で1年間!!です。
独り立ちした体験を持たない私がいうのは、説得力を持たないのは百も承知ですが、うまくいかなかった先輩諸氏を数多く見て勉強してきました。
宅配便が時間指定通りに、荷物を配達することが出来るのはなぜか?(外国のヒトからみるとこれは驚異だそうです。)
それは、十分に整備された道路があるからです。秩序だった交通網が維持されているのは、インフラ整備に携わる方々が日夜努力されているからです。
土木建設業に従事されている方は、必要とされています。その業界の資格を有する方は本当に必要とされています。私からすると羨ましいです。
Mさん,方法と準備次第です。まだまだリベンジは可能なのです。