掃除は単なる片付けではなかった。
当番でもないのにトイレ掃除を徹底的にこなした。開け放した窓からは、初夏の風が滑り込み、洗剤にまみれたタイルの上をさらう。
掃除は自浄作用がるような気がする。モヤモヤがフェードアウトしていく。
職場での前時代的なサビついた月1回の全体朝礼。終わりがけにスローガンを連呼する。よくある「顧客第一主義」「顧客に届けるのは最高の品質」、だいたいこのような昭和フレーズだ。ただ実態は、納期遅れの改善は遅れているうえ、顧客都合より自社の利益優先(当たり前と言えばそうだが)に陥っている。これってウソを叫んでいるのでは。自分で語り、自分の耳で聞いている。
今は亡きおじいちゃんから子供の頃「ウソをついては絶対にいけない!」と叩き込まれた。正直こそが自分を守る、とも言っていたと思う。だから、スローガンを連呼するたびに体の細胞が妙な毒に染まっていくような気がしてきた。
まるで自分を清めるかのように便器をふきあげ、ブラシでタイルをこすった。
長年の汚れで黒ずんだタイルは、そう元には戻らないが少し垢が落ちたような気がした。それとともにこちらの心もフワッと軽くなった。